ヒース/孤独
深く、深く、ふかくもぐっていく。
自分しか見ることができなくて、自分の声しか聞こえなくて、痛烈なまでに“独り”であることを感じる。
闇の奥に誘われる、あらがえないまま落ちて行きそうになる。
あらがわなければならないはずなのに、その気力が奪われていく。闇にすべてを投げ出したくなる。
とても恐ろしく、だが同時にひどく心が安らいだ。
闇は恐怖をもたらすが、しかし同じように心地よい眠りをもたらすものでもある。
「・・・ス。ガユス!」
眼を開くとカーテンで遮られなかった一筋の光に髪を輝かせている男がいた。
「まぶしい」
なぜかカーテンをすべて開けられた。
「だから、まぶしいって」
「光の中で今自分が何をしようとしていたのかよく見てみろ」
言われて眼を落すとすぐ下に鈍く輝く銀色があった。具体的にはヨルガの刃先。
ヨルガの鋭い刀身が首に添えられていて、切れてしまった皮膚から血が一筋流れだしていた。
「・・・あれ」
「あれじゃない。飼育動物の分際で主人の許しなく勝手に死のうとするな」
普段なら激しい反発を食らう言葉にもガユスはおとなしく首をかしげたまま。
はあ、と息をついてその手からヨルガをとりあげる。
なまっちろい首筋に伝う赤色が気になって、べろりと舐め上げた。
舐められた首筋からぴりっと痛みが走る。
カランと薬莢の落ちる音がして、痛みは引いていった。うまく思考がまとまらなくて目の前にある男の顔を見つめる。
なぜか視線が合ってしまい、なんとなくはずす気になれなくて見つめ続ける。
ギギナは目を眇めてよしとか何とかうなずくと、くるりと身をひるがえして部屋から出て行った。
眼を閉じても、あの闇にはもう出会えなかった。
あきらめて視線を窓辺に寄せる。
窓から見える空き地には、ヒースの群れが揺れていた。