花菱草/私を拒まないで
はじめは本当に気づいていなくて、かなりひどいことを言った。
気づいた後も、どうしてそんな思いを向けられるのかが理解できなくて反発した。
なんだかんだ言ってもあいつは俺から離れていくことはないと無条件に信じていた。
この世に信じられるものなんてないはずだったのに。
あいつは、怖がっている俺を察して、おとなしくしていてくれた。
無理をしいることだってできただろうに、それをしなかった。
俺を待っていてくれたんだ。今にして思えばそういうことだったんだろう。
普段は無駄に察しが良くて気疲れするほどなのに、ことギギナに関してその能力は不具合を起こすらしい。
「さっむ」
「細すぎるんだ。もっと食べろ」
「太れないし筋肉もつきにくい体質なんだよ。むしろこの状態を維持できてるのが奇跡だ」
「今回もまた危なかった。私がいたから良いものの」
「お前がいるからいいんだ。それより本気で寒い。そっちいっていいか」
「・・・ああ」
分厚い体にすり寄る。いつの間にかギギナがパーソナルスペースに入ることを全く気にしなくなっていた。
しなやかな筋肉に包まれた体は発熱量が多くて近くによると温かい。
肉食獣は体温がたかいからなー。
「ガユス」
「何だ」
「・・・何のつもりだ」
「何が?」
「そうひっつかれると困るのだが」
「なにが。あったかいのに」
手が冷たかったのでギギナの腕を掴んで暖をとる。あーぬくい。
ギギナの手が顔を包む。
心地よい暖かさに思わず目を閉じると、口をふさがれた。
快さに流されて受け入れる。
そのまま地面に押し倒されて・・・そこで我に返って、思いっきり突き飛ばした。
もちろんギギナはびくともしなかったが、抵抗されたことは分かったようで、俺は解放された。
何がどうしてこうなったのか、ギギナのことも自分のこともわからない。
パニックで頭を抱えた俺に浴びせられたのは冷たい声だった。
「もうやめる」
「・・・え」
「いつまで待てばいい?他のことにはいやになるほど気が回るのに、なぜ私のことはわからない。
踏み込むと逃げられる、どれだけ我慢したことか!ようやく受け入れたのかと思えばこれだ。
要するに貴様は私をうけいれるつもりなどないのだろう。いや、ちがうな。誰も受け入れるつもりなどないのだ。
そうやっていつまでも閉じこもっていればいい。過去にしがみつき、未来に目を向けず、堅牢な殻の中にこもっていれば安全だろう」
ギギナが息をつく。
ネレト―と荷物を持ち上げて帰り支度をする。
「私はもう帰る。貴様も好きにしろ」
それきり一度も振り返らず、ギギナは森の出口へと去っていった。
そして、帰ってこない。
文字どおり見捨てられたらしい。
人の気持ちを掘り起こして、つきつけて、突き放して去るなんて。
俺だって、誰かに受け入れてほしかった。
お前が相手でもいいかなと。いや、お前が受け入れてくれるならいいと思っていたんだ。
気づくのが、遅かったけれど。
本当はガユスが受け入れ態勢になるまでをねっちりと書きたかったのだけど難しかった。